トリートメントコーディネーターの闇を垣間見た。本来この仕事は、再建治療を是とする歯科医師が行うべき物で、アシスタントや衛生士が行う物では無い。なぜなら、治療ゴールをドクターが決める疾病治療と大きく違うのは再建治療のゴールは患者本位になると言う特徴があるからだ。これ自体は非常に重要で、その再建治療に隠れている様々なエビデンスは、理工学的知識はもとより機能学的なあるいは生物学的な膨大な量のエビデンスを必要とし、「こういうもっとキレイなクラウンが有りますよ?いかがですか?超お勧めです!支払いの相談も受けますのでご安心ください」なんていうジュエリーショップの話では無いのだが、それに気がつかない歯科医師も大勢居るからこんな仕事が生まれる。あげくに欠損部位に対して「インプラントが最上だと思いますよ、詳しいことは院長と相談しましょう」なんて、街のアンケート勧誘から個室に連れ込まれ偉い人が出てきて契約をするたぐいと何もかわらん。
以下実話です。
A子さんはB歯科医院のアシスタントをしていたのだが、その優秀さを買った院長に勧められ、とあるセミナーを何度か受講しトリートメントコーディネーター(以下TC)の私的資格に合格した。単なるアシスタントでは無く、さらに重要なポジションの自分に希望がもて仕事が数倍楽しくなった。患者さんの必要に応じ院長からの指示で様々な補綴関連の再建治療の説明はもとより、時に疾病治療の選択まで任されるまでになった。
彼女にはこの医院の大きな柱として働いている意義が生まれたし、何よりこの医院を支えているかもしれないという大きな責任も、彼女の仕事をより充実させていた。あるときは非常に大きな自費ケースを契約まで持って行き、周囲の同僚達には「すごいじゃん!」という賞賛を受け、当然当初の約束だった歩合給も思った以上に上がった。
しかしである。全てが全てうまくいくはずも無く、特に最近は院長から「もっとうまく説明できないのか?」と叱咤される場面が続き、もう一人いる後出のTC同僚の成績とも同じようなレベルになるに従い競争を余儀なくされてきた。患者の奪い合いが始まり、想像以上にぎすぎすした環境に院長は「チーム力を高めよう」という新たなセミナー参加を提案してきた。
しかし彼女の心はすでに折れており、もうこの仕事に対する希望や将来に対する思いは無くなっていた。チーム力を高めるにも影では「あそこであの契約を取れなかったのはA子の所為なんだよ」と言われ、しかも「私なら契約まで大丈夫なのに」と同僚から言われる始末だ。A子は本来このアシスタントと言う仕事がTCの資格を取る以前から大好きだった。患者さんとのやり取りや、患者に寄り添った思いを伝える素敵な仕事だと思っていた。しかし今は、二度と歯科の仕事をしようとは思わないだろうと密かに考えていた。その後院長に惜しまれながらも彼女は静かに辞表を提出していた。この仕事は最低です、、と心でつぶやいた。
利益が出なければ医院が成り立たないのは周知ではあるが、その責任の多くの部分を担っているのだと彼女に勘違いさせた院長の責任は大きい。患者不在のやり取りが目に見えてあからさまになるに従い、本来歯科医療に従事することを誇りに思っていた彼女の心はすでにもうそこには無い。たかが一人のアシスタントだし、また代わりが来ればそれでいいだろうと院長が思うのなら、この医院は将来への展望も歯科医療への重要な思いも無いまま、どこに向かっていくのか。
イヤイヤ、これは希有な例でしょ。うちはこんなにもうまくいっているのだからこれはこれでいいのだよ、、やり方に問題があったんだよ、、と言う声も聞こえるが、歯科医療全体の未来を考えるに、ワシは真っ向からこのシステムには異議を唱える。全ての責任は院長にあるのだからね。経営者に成り下がった?(もちろん異論あるでしょ)院長に何の魅力を感じて患者さんが集まるのか??医院の魅力??組織の魅力??
結局は人と人との緊密なつながりに歯科としてのプロの流儀にお金が発生しているだけなんだから。と、TCの闇を垣間見た話でした。何かいやな思いがまとわりついて、医療とはやはり米国のようなビジネスなのか?と残念になる話なのでした。
違うでしょ。
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