医療社会学という立場から医業経営を考える「歯科医業の倒産時代」というこの本は、実は、1985年に東京医療社会学研究所の岩下氏により発表されました。1985年です。今から38年前です。私は1988年開業で35年目ですので、新規開業時、実は精読してビビった本の一つでした。
当時の私は、この本は決して歯科医業の未来を予言していると言うわけでは無かったと思っていたのですが、近い将来の歯科医業の困窮やその解決方法の示唆、医業と歯科医業の峻別と連携など、興味深い記述も見られました。そして何より、今になって驚くのは、この2023年までに私たちが経験してきて、何も解決されていない記述されている事が、実は何度もこの30年で繰り返されていると言うことでしょうか。
常に歯科医業は保険診療と自由診療と倫理観に左右され、まあ、当然正義の倫理観は必須ですが、新しい技術が日進月歩でデジタル化されようがされまいが、生き残る歯科医師と放棄する歯科医師と挫折する歯科医師と、様々な像を考えさせられます。当時、決定的に不足していると思われた医院マネージメントは、今や経営コンサルの手の内に有り、今ではかなりの数の信者を集め、あたかも成功している事例が沢山あるようにも思われます。しかし、その影には無知識無教養を逆手に取られ、いいようにATM化された医院も多いのでしょう。
私は当時この本でビビりながら、しかし結局、事の本質としての自院も含めた歯科医療の根幹は、マネージメントはプライオリティの上位では無く、医科歯科関連学術的知識の網羅とその実践とその責任だと感じ、ありとあらゆる書物を読み、有象無象も多いだろうとわかっていても、可能な限りの多くのセミナー学会に足を運び、翌日からそのスキルを維持し、予後予知性を確認して患者に還元する、そんな当たり前の事の繰り返しなのです。
私はスペックマニアでは無かったので、何か一つの深い探求より、広く浅くほぼ全てを網羅して患者を鳥瞰し、必要な場所に降り立つ仕事が臨床には最適だと心がけてきました。しかし、最近首都圏からの転勤や移動で当院を訪れる歯科治療のすさまじく悲惨な治療痕現状を見ると、(私の処置が100点だと言うことではありません)なるほどこれほどまでに疲弊しているのか、あるいは前述の何かが不足しているのか、あるいはプライオリティでマネージメントだけが選択されたのか、等等悲しくなって来るのです。お金を払えば最適な治療を提供できる、、と言う、世に蔓延している文言は嘘だと感じます。
正直、この30年以上、歯科は進化していますが、歯科医療は進化していません。前述の様々なファクターもさることながら、「歯科医業とは何か」という1990年に飯塚先生の書かれた本が今でも参考になります。こんな本を読むくらいならとクイントを精読するのもいいかもしませんが、偏った歯科医師になるかもしれません、いえ、もう皆なっています。そして医療はサイエンス+アートだと本当に最初に提言した河野先生(元都立駒込病院内科1999年)の「医療学」を是非参考にしつつ、ここから秋本氏の「手仕事の医療」2017年と歯科医療の心は連綿と引き継がれていくのですが、これを考えずに出来たのが「歯科医療後進国日本」というビックリ本なのだろうか。
日本の歯科医療が後進しているのでは無く、やはり歯科医療の提議が曖昧だからこそ、同じ歯科医療の疲弊を何度も経験してしまうのかもしれないのです。そもそも厚労省の医政局歯科に出向いて驚くのは看護師エリアの1/4しか机が無いことで、歯科医療への関心の低さを物語っているような気がします。「歯科医業の倒産時代」では歯科医師法が紹介されています。30年以上前でも、??な部分がありますが、今だそのままなのです。100年前の歯科医師法を、これからも皆さん頑張って遵守していきますか?時代の変遷に追いつかない法律は業界を疲弊させ将来を悲観的なものにすると考えるのは行きすぎでしょうか。
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