1月 09, 2023

救世主のような歯科医師?

 歯科医院を経営している以上、スタッフの未来や自分の未来、家族の未来を考えた上で、どういうスキルと知識を獲得し。どう患者に提供すればどれ程の収入があるのか、結果患者はどのような利益を得ることが出来るのか、その患者の利益を継続するためにはどうすれば良いのか等など、そんなことを大学ではこれっぽっちも教えないし、法的スタンスとして歯科医師法ではそういう歯科医師と言う立場は否定される。おかしな物だ。

唐突に何でこんな話ななったかというと、ある小説の話だ。作家は歯科医師像としてどんなイメージを持ちどういう書き方をするのかで、今現在の歯科の状況がわかる。もちろん「ウチは最高ですから」という所から「別に気にしたことないよ」という所まで、歯科医院自体千差万別であることを考えても、実に面白い。無論、作家が抱いているイメージは経験から来る物だから、果てしなくハズレを引いていたら(歯科医師とてただの人)イメージは最悪だろう。主人公は「野原」さんという。

「痛みに襲われたのが、緊急事態宣言の発出されたその日のこと。ステイホームどころでない激痛に、慌てて近場の歯医者捜すも、ある歯科医院は診療時間を短縮中で、三週間先まで予約が埋まり、ある医院はスタッフ不足のため新規患者を受け付けておらず、ある歯科医院は56日まで休業中とことごとく空振りに終わった」

これは良くある話だが、、そこでこの患者は徒歩圏内のとある歯科医院を選択した。今時とは言えない歯科医院で、WEBサイトとは無縁、だからネットの口コミとは無縁、予約無しいつでもOK、お好きなときにいらしてくださいと。これはこれで逆に不安になる。ここは人気のない歯科医院ではないのか?ということは、技術のない歯科医院、あるいは気性が荒い先生、いやいや酷く冷たい先生か?いや、うっかり八兵衛のような?うんうん、死ぬほど不器用?あるいは商売色強くてやたらとインプラントを勧める?、、ネガティブ要素を探し始めたらきりがない事になる。
結果、この医院の先生の診断は実に面白かった。野原さんはコミュニケーションを十分にとってもらい、痛みはそれだけで激減。そのやり取り。

「野原さんの奥歯は何の問題は見つかりませんでした。歯茎も至って健康です。物理的には痛む理由はありません」と説明。でも「痛いんです」「わかります。その痛みに嘘はないでしょう。僕はそれを代替ペインと呼んでいます」。「加原さんの中で、実際に痛んでいるのは、歯でなく別の部分です。歯はその身代わりとして痛みを引き受けているのにすぎません」「別の部分?」「端的に申しあげればです。特殊な例でなく、世の中には、心因的な胃痛、頭痛があります。加原さんの場合、それが歯に出ただけのことです」。では、「どうすれば治るのですか「真の痛みの正体を見極め、直視することです」と言われながらもやり取りが続いた。

この先生、話しかしてないから診察代はいらないという。むしろ患者が経営を心配してくれているよう。患者と歯科医師をつなぐのは、デジタルなものではなく、極めてアナログな「気持ち」だけという凄さよ。だから、歯科医師と患者の関係はビジネスライクもけっこうだが、お互い気が休まる暇がないだろう。こう言う歯科医師が今では希少になってきているかもしれない。診断ではない、何かがある。間違ってコンサルでも入ろう物なら、てこ入れさせるだろうなと心配する。
当院も昔からあら探しストーカーのような悪意の患者の書き込みや、患者の自分勝手な解釈で一方的に非難する電話など何度も経験した。私のコミュ不足と言えばそれまでだろうが、今更ながらこういう穏やかな海に船を出せない状況がなんとも悔しい。
世の中、比較的盛業歯科医院でも、2億稼げば2億5千万必要になり、3億稼げば3億5千万必要になる等という良くある話は、実は自分で自分の首を絞めながらかつて経験していた穏やかな日々を、未来に向かって再実現しようとしている非常に不合理な日常なのだろうな。メキシコの漁師の有名な話じゃないか。
だから、こう言う歯科医師、実にうらやましく思ったりしている。



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